飲食店、美容室、クリニック、整体院、物販店などでは買主が既存の内装や設備を活用できるため、開業費用を抑えられるメリットがあります。
売主にとっても、設備の撤去費用や原状回復費を抑えられる可能性があります。条件が合えば、通常の売却よりスムーズに買主が見つかることもあります。
この記事では、居抜き売却の仕組み、メリット・デメリット、注意点を解説します。
目次
居抜き売却とは?
居抜き売却では、店舗にある内装や設備をそのまま残して引き渡します。
たとえば、飲食店なら厨房設備、カウンター、テーブル、椅子、排気設備、空調などが対象になることがあります。
美容室ならシャンプー台、鏡、椅子、給排水設備などが対象になります。
買主は既存設備を活用することで開業費用を抑えられます。
売主も撤去費用や廃棄費用を減らせる可能性があります。
造作譲渡と関係が深い
居抜き売却では造作譲渡という考え方が関係します。
造作譲渡とは店舗の内装や設備、什器などを次の借主や買主に譲り渡すことです。
譲渡するものに価値がある場合は、造作譲渡料として対価を受け取れることがあります。
ただし、造作譲渡ができるかどうかは、貸主との契約内容によって変わります。
居抜き売却が向いている物件
飲食店
飲食店は居抜き売却が検討されやすい代表的な業種です。
厨房設備、排気設備、グリストラップ、カウンター、客席、空調、給排水設備など、開業時に大きな費用がかかる設備が多いためです。
買主にとっては、既存設備を使えれば初期費用を抑えられるメリットがあります。
特に同じ業態で営業したい買主が見つかれば、居抜きの価値が評価されやすくなります。
美容室や理容室
美容室や理容室も居抜き売却に向いている場合があります。
シャンプー台、鏡、セット面、椅子、給排水設備、照明、受付カウンターなど、業種特有の設備が整っているためです。
買主が同じ美容系の業種で開業する場合、内装を活かしやすくなります。
ただし、設備のデザインやレイアウトが買主のコンセプトに合わない場合は評価されにくいこともあります。
クリニックや整体院
クリニックや整体院も、居抜き売却できる場合があります。
受付、待合室、施術室、診察室、洗面設備、空調、照明などが整っている物件は同じ業種の買主にとって魅力になることがあります。
医療系や施術系の店舗は、内装工事費が高くなりやすいため、居抜きで引き継げることがメリットになる場合があります。
ただし、医療機器や専門設備は所有者やリース契約を確認する必要があります。
物販店や事務所
物販店や事務所でも居抜き売却が有効なことがあります。
棚、カウンター、照明、間仕切り、受付スペース、空調、ネットワーク設備などが使える場合、買主の初期費用を抑えられます。
特に、内装の状態が良く幅広い用途に使いやすい物件は評価されやすいです。
一方で、特殊すぎる内装は買主が限られることがあります。
居抜き売却のメリット
原状回復費を抑えられる
賃貸店舗を退去する場合、契約内容によっては内装や設備を撤去し、スケルトン状態に戻す必要があります。
飲食店や美容室などでは原状回復費が高額になることがあります。
居抜きで次の買主や借主に引き継げれば、撤去せずに済む可能性があります。
ただし、貸主の承諾が必要な場合があるため、契約内容を確認しましょう。
造作譲渡料を受け取れる可能性がある
内装や設備に価値がある場合は、造作譲渡料を受け取れる可能性があります。
厨房設備、空調、内装、什器、看板、カウンターなどが買主にとって魅力的であれば、売却代金とは別に対価を設定できることがあります。
ただし、すべての設備に価値がつくわけではありません。
古い設備や故障している設備は、むしろ撤去費用を見込まれることもあります。
買主が開業しやすい
居抜き物件は買主にとって開業しやすい点がメリットです。
ゼロから内装工事や設備導入を行うよりも、時間と費用を抑えられる可能性があります。
特に、同じ業種で営業する買主にとっては既存の設備やレイアウトを活かしやすくなります。
買主の初期費用を抑えられることは、売却時のアピールポイントになります。
売却期間を短縮できることがある
居抜き売却では、条件に合う買主が見つかれば売却期間を短縮できることがあります。
買主は内装や設備を一から整える必要がないため、開業までの期間を短くできます。
売主にとっても原状回復工事を行わずに引き渡せるため、退去までの期間を短縮できる可能性があります。
ただし、買主の業種や希望条件に合わなければ、売却に時間がかかることもあります。
居抜き売却のデメリット
貸主の承諾が必要な場合がある
賃貸店舗の場合、居抜き売却には貸主の承諾が必要になることがあります。
借主が自由に内装や設備を第三者へ譲渡できるとは限りません。
賃貸借契約で造作譲渡が制限されていたり、退去時に原状回復を求められたりする場合があります。
貸主の承諾を得ずに話を進めると、トラブルになる可能性があります。
買主が限られることがある
居抜き売却では買主が限られることがあります。
内装や設備が特定の業種向けになっている場合、同じ業種や近い業種の買主でなければ活用しにくいためです。
たとえば、ラーメン店の設備は飲食店には向いていても、美容室や事務所には使いにくいでしょう。
特殊な内装ほど、買主の幅は狭くなります。
設備の故障でトラブルになる可能性がある
居抜き売却では設備の故障や不具合がトラブルになることがあります。
引き渡し後に厨房設備、空調、給排水、電気設備などが使えないと、買主から修理や損害を求められる可能性があります。
古い設備や使用頻度が高い設備は、特に注意が必要です。
把握している不具合は事前に伝え、契約書に明記しましょう。
造作譲渡料がつかない場合もある
居抜き売却だからといって必ず造作譲渡料がつくわけではありません。
設備が古い、故障している、買主の業種に合わない、撤去費用がかかるなどの場合は価値がつかないこともあります。
場合によっては、設備を残すより撤去した方が売却しやすいこともあります。
造作の価値は売主の購入価格ではなく、買主が使いたいと思うかどうかで決まります。
居抜き売却前に確認すること
賃貸借契約書の内容
賃貸店舗の場合は、まず賃貸借契約書を確認しましょう。
退去時に原状回復が必要か、造作譲渡が認められているか、貸主の承諾が必要か、転貸や名義変更ができるかなどを確認します。
契約内容によっては、居抜き売却が難しい場合もあります。
分からない点がある場合は、貸主や管理会社、不動産会社に相談しましょう。
貸主の承諾の有無
居抜き売却では、貸主の承諾が必要になることがあります。
次の買主や借主が入る場合、貸主は新しい契約相手を審査します。業種、信用力、賃料条件、営業内容などによっては、承諾されないこともあります。
売主と買主だけで合意しても、貸主が認めなければ契約が進まない場合があります。
早めに貸主へ相談し、進め方を確認しましょう。
設備や造作の所有者は誰か
譲渡する設備や造作の所有者を確認しましょう。
厨房機器、空調、照明、看板、カウンター、椅子、什器などが、売主の所有物なのか、貸主の所有物なのか、リース品なのかを整理する必要があります。
自分の所有物でないものを勝手に譲渡すると、トラブルになります。
譲渡できるものとできないものを一覧にしておきましょう。
リース品の有無
店舗設備の中にリース品が含まれていないか確認しましょう。
厨房機器、レジ、空調、通信機器、複合機などは、リース契約で利用している場合があります。リース品は売主の所有物ではないため、勝手に譲渡できません。
買主がリース契約を引き継げるのか、解約する必要があるのかを確認しましょう。
リース会社への連絡も早めに行うことが大切です。
設備の状態
譲渡する設備の状態も確認しましょう。
故障している設備、動作が不安定な設備、古くて修理が必要な設備があれば、買主に伝える必要があります。可能であれば、動作確認を行い、状態を一覧にまとめておくと安心です。
設備の状態を曖昧にしたまま契約すると、引き渡し後にトラブルになることがあります。
現状渡しにする場合でも、分かっている不具合は説明しましょう。
居抜き売却の流れ
Step1】契約内容を確認する
まず、賃貸借契約書や所有関係を確認します。
賃貸店舗の場合は、原状回復義務、造作譲渡の可否、貸主の承諾、退去通知の期限などを確認しましょう。所有店舗の場合は、内装や設備を含めて売却できるか、設備の所有者を確認します。
この段階で居抜き売却が可能かを把握しておくことが重要です。
不明点があれば、不動産会社や専門家に相談しましょう。
Step2】貸主や管理会社に相談する
賃貸店舗の場合は、貸主や管理会社に居抜き売却の相談をします。
貸主が造作譲渡や次の借主への引き継ぎを認めるか確認しましょう。貸主によっては、次の借主の業種や契約条件に制限を設けることがあります。
早い段階で相談しておけば、後から話が止まるリスクを減らせます。
貸主の意向を確認したうえで、買主探しを進めましょう。
Step3】居抜き売却に強い不動産会社に相談する
居抜き売却は、通常の不動産売却より専門性が必要です。
店舗売却や事業用不動産、居抜き物件の取り扱いに慣れた不動産会社に相談しましょう。業種ごとの買主ニーズや造作譲渡の進め方を理解している会社なら、スムーズに進めやすくなります。
飲食店、美容室、クリニックなど、業種に強い会社を選ぶことも大切です。
複数社に相談し、提案内容を比較しましょう。
Step4】査定を受ける
次に、居抜き売却の査定を受けます。
査定では、店舗の立地、面積、内装、設備の状態、業種適性、残りの契約条件、周辺需要などが確認されます。造作譲渡料を設定する場合は、設備の状態や買主の需要が重要です。
売主が設備にかけた費用と、現在の価値は同じではありません。
買主が使いたいと思うかどうかを基準に査定されます。
Step5】買主を探す
査定後、不動産会社が買主を探します。
同じ業種で開業したい人、近い業種へ転用したい人、既存設備を活かしたい事業者などが候補になります。営業中の店舗では、情報公開の範囲を慎重に決める必要があります。
従業員や取引先に売却を知られたくない場合は、限定的に紹介する方法もあります。
秘密保持の方針を不動産会社と相談しましょう。
Step6】条件交渉を行う
買主が見つかったら、条件交渉を行います。
造作譲渡料、引き渡し日、残す設備、撤去する設備、故障箇所の扱い、貸主の承諾、契約条件などを確認します。
居抜き売却では、設備や造作の認識違いが起きやすいため、口頭ではなく書面で整理することが大切です。
設備一覧を作成し、引き渡し内容を明確にしましょう。
Step7】契約と引き渡しを行う
条件がまとまったら、契約を結びます。
所有店舗の場合は売買契約、賃貸店舗の場合は造作譲渡契約や賃貸借契約の切り替えが関係します。貸主の承諾が必要な場合は、承諾を得たうえで進めます。
引き渡し時には、設備や鍵、取扱説明書、保証書などを渡します。
設備の状態や残置物の有無を確認し、トラブルを防ぎましょう。
居抜き売却を高く成功させるポイント
設備や造作の一覧を作る
居抜き売却では設備や造作の一覧を作りましょう。
厨房機器、空調、照明、看板、家具、什器、レジ、給排水設備など、残すものをリスト化します。
所有者、購入時期、使用年数、故障の有無、リース品かどうかも整理しておくと安心です。
買主にとって、何が引き継げるのか分かりやすくなります。
清掃や簡単な補修を行う
売却前には清掃や簡単な補修を行いましょう。
店舗内が汚れていたり設備が乱雑に置かれていたりすると、買主の印象が悪くなります。
床、壁、厨房、トイレ、看板周りなどを整えるだけでも、印象は変わります。
大きな改装をする必要はありませんが、使える状態に見せることは大切です。
買主が開業後のイメージを持ちやすいように整えましょう。
同じ業種の買主を探す
居抜き売却では同じ業種の買主を探すと成功しやすくなります。
飲食店なら飲食店、美容室なら美容室、クリニックならクリニックというように、同じ業種であれば設備や内装を活かしやすいためです。
買主にとって初期費用を抑えられるメリットが大きくなります。
業種に合った買主へ情報を届けられる不動産会社を選びましょう。
買主のニーズと設備が合えば、造作譲渡料を得られる可能性もあります。
造作譲渡料を現実的に設定する
造作譲渡料は現実的な金額に設定しましょう。
売主が内装や設備に多額の費用をかけていても、その金額がそのまま評価されるとは限りません。
買主は、設備の年式、状態、使いやすさ、撤去費用、代替設備の価格などを見て判断します。
高すぎる造作譲渡料は、買主が離れる原因になります。
複数社に相談する
居抜き売却では複数社に相談することが大切です。
不動産会社によって、店舗売却や居抜き物件の販売力、得意業種、買主ネットワークは異なります。
1社だけに依頼すると、適切な買主に届かない可能性があります。
複数社の提案を比較し、どの会社が自分の店舗に合った買主を探せるか確認しましょう。
居抜き売却の注意点
貸主の承諾なしに進めない
賃貸店舗の場合は、貸主の承諾なしに居抜き売却を進めないようにしましょう。
借主が内装や設備を第三者に譲渡したくても、貸主が認めなければ実現できないことがあります。
また、次の借主の業種や信用力によって、貸主が契約を認めない場合もあります。
売主と買主だけで話を進めると、後から契約が成立しない可能性があります。
原状回復義務を確認する
居抜き売却では原状回復義務の確認が重要です。
賃貸借契約で退去時にスケルトン戻しが必要とされている場合、居抜きで引き継げない可能性があります。
貸主が居抜きを認める場合でも条件付きになることがあります。
原状回復費を抑えられると思っていたのに、結局撤去費用がかかるケースもあります。
設備の不具合を隠さない
設備の不具合は買主に正直に伝えましょう。
故障している設備や動作が不安定な設備を隠して譲渡すると、引き渡し後にトラブルになる可能性があります。
現状渡しにする場合でも、把握している不具合は説明することが大切です。
設備一覧に状態を記載し、契約書にも反映させましょう。
リース品を勝手に譲渡しない
リース品は売主の所有物ではないため勝手に譲渡できません。
厨房機器、空調、レジ、通信機器、複合機などがリース契約になっている場合は、リース会社に確認が必要です。
買主が契約を引き継げるのか、売主が解約するのかを決める必要があります。
リース品を所有物として譲渡すると、契約違反になる可能性があります。
売却前にリース契約を整理しましょう。
税金がかかる可能性がある
居抜き売却で造作譲渡料を受け取った場合、税金が関係することがあります。
店舗設備や造作の売却益、事業用資産の譲渡、消費税の扱いなど、状況によって確認すべき点が変わります。
個人事業主や法人で店舗を運営している場合は会計処理にも注意が必要です。
税金の扱いはケースによって異なります。
居抜き売却に関するよくある質問
居抜き売却とは何ですか?
居抜き売却とは、店舗や事務所の内装、設備、什器などを残したまま売却または譲渡する方法です。
飲食店や美容室などでは、買主が既存設備を活用できるため、開業費用を抑えられるメリットがあります。売主も、撤去費用や原状回復費を抑えられる可能性があります。
ただし、賃貸店舗の場合は貸主の承諾が必要になることがあります。
居抜き売却には貸主の承諾が必要?
賃貸店舗の場合、貸主の承諾が必要になることが多いです。
賃貸借契約によっては、造作譲渡が制限されていたり、退去時に原状回復が必要だったりします。また、次の借主を貸主が審査することもあります。
売主と買主だけで合意しても、貸主が認めなければ進められない場合があります。
事前に貸主や管理会社へ相談しましょう。
居抜き売却で原状回復は不要になりますか?
居抜き売却が成立すれば、原状回復費を抑えられる可能性があります。
ただし、必ず原状回復が不要になるわけではありません。賃貸借契約の内容や貸主の判断によっては、一部撤去や修繕を求められることがあります。
原状回復義務は契約内容によって異なります。
居抜き売却を進める前に、契約書と貸主の意向を確認しましょう。
古い設備でも造作譲渡料はつきますか?
古い設備でも、買主が使いたいと判断すれば造作譲渡料がつく可能性があります。
ただし、故障している設備や老朽化が進んだ設備は価値がつきにくく、撤去費用を見込まれることもあります。造作譲渡料は、売主がかけた費用ではなく、買主にとっての利用価値で決まります。
現実的な価格設定が大切です。
不動産会社に査定してもらいましょう。
居抜き売却はどこに相談すべき?
居抜き売却は、店舗売却や事業用不動産、造作譲渡に詳しい不動産会社に相談しましょう。
通常の住宅売却とは違い、貸主の承諾、設備の所有権、リース品、造作譲渡契約など専門的な確認が必要です。飲食店や美容室など、業種ごとの買主ニーズを把握している会社が向いています。
複数社に相談し、販売方法や実績を比較しましょう。
この記事の編集者
IELICO編集部
家を利口に売るための情報サイト「IELICO(イエリコ)」編集部です。家を賢く売りたい方に向けて、不動産売却の流れ、税金・費用などの情報をわかりやすくお伝えします。掲載記事は不動産鑑定士・宅地建物取引士などの不動産専門家による執筆、監修を行っています。
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